~チョコレートとお酒の楽しみ方~「ドンナ・セルバティカ」店主 古屋敷幸孝氏
フランスには「食後の3C」という言葉があります。それはコニャック・ショコラ・シガーのことで、食後にこれらのアイテムでゆっくりと寛ぐのが大人の嗜みとされています。今回はチョコレートをメインに、コニャックなどのお酒との楽しみ方のコツ、マリアージュの考え方について、お話しいただきました。
~チョコレートの用語について~
まずは、植物としてのカカオの特徴、カカオ豆の成分や品種についてお話しいただきました。カカオは中央アメリカから南アフリカの熱帯地域を原産地として、背丈が12~25mの常緑樹、カカオの実は15~30cm×10cmの卵型で、木の幹に直接実ります。これを割ると、白いヌルヌルしたパルプに包まれたカカオ豆が30~50粒入っています。
カカオ豆の成分は、脂肪が50~57%、タンパク質が15%程度、炭水化物が30%程度。微量成分としてカフェインやテオブロミン(カフェインと同じ興奮作用がある)、ポリフェノールがあります。
品種は、古代種で高品質なクリオロ種(生産量は全体の1%以下、0.01%というデータもある)や90%以上の生産量を占めるフォラステロ種、これらを交配したトリニタリオ種が代表的です。
次に、原材料の用語について。
「ファインチョコレート」カカオ豆を含め全ての材料が高品質なもので、カカオ豆の風味を最大限に引き出した製法によって作られたものをいいます。今回は、このカテゴリーのチョコレートを中心にマリアージュを行っていただきました。
カカオ含有率は、チョコレートにおけるカカオ由来の原料の含有率で、カカオ豆から造られるカカオマスと流動性を高めるために追油されるカカオバターの合計で表されます。そのため同じカカオ含有率であっても、カカオマスとカカオバターの割合が異なる場合があるので、味わいは様々になります。通常この比率は明記されていないので、味わって判断する必要があります。ちなみに残りの割合は砂糖となります。
70%チョコレート=カカオマス60%+カカオバター10%+砂糖30%
70%チョコレート=カカオマス65%+カカオバター5%+砂糖30%
「カカオニブ」カカオ豆の胚乳部のことで、食用可能な部分になります。
「カカオマス」カカオニブを細かくすりつぶして、含まれている油分によって液状にしたものです。
「カカオバター」カカオマスに圧力をかけて、油分などを抽出したものです。チョコレートに粘度となめらかさを与えるために用いられています。価格が高いので、安価なチョコレートには植物油脂を加えることも多く、ココアバターとも言われます。
次は、製品関連の用語について。
「ダークチョコレート」ミルクパウダーを含まないチョコレート。
「ミルクチョコレート」ミルクパウダーを加えたチョコレート。
「クーベルチュールチョコレート」通常はボンボンショコラの上掛けなどに使われる流動性の高いチョコレートのことを言います。近年はショコラティエが使う製菓原料用のチョコレートを言うことが多く、これをそのまま食することも多くなっています。
「シングル・オリジン」ある特定の国で生産されたカカオ豆を使用したチョコレート。
「シングル・エステート」ある特定の地域で生産されたカカオ豆を使用したチョコレート。
「プランテーション・チョコレート」ある特定の栽培農園で生産されたカカオ豆を使用したチョコレート。高品質で希少性があり、収穫年度を表示した製品もあります。
「ガナッシュ」チョコレートとクリームを混ぜ合わせた、口どけの良いチョコレート。ボンボンショコラのセンターに使われます。
「プラリネ」焙煎したナッツ類(ヘーゼルナッツやアーモンド)に、加熱したカラメル化砂糖を混ぜ合わせ、すりつぶしペーストにしたものです。
「ボンボンショコラ」センターと呼ばれる中身(ガナッシュやプラリネなど)をチョコレートで覆った、一口サイズのチョコレート。
~チョコレートの製造工程について~
まずは発酵工程についてです。カカオパルプ中の糖分(糖度10~15%)をアルコール発酵させてエタノールに変化させ、乳酸発酵によりエタノールを酢酸へと変化させます。生じた酢酸がカカオ豆に染み込むことで、豆の細胞組織が壊れます。豆中のタンパク質の加水分解などが進行し、チョコレート香味の前駆体(焙炒することで香味成分となる)が生じます。発酵は4~7日程度。
発酵が終了したカカオ豆を、水分6%程度まで乾燥させることで保存性を高めて、原産地から輸出します。この乾燥をゆっくりと丁寧に行うことが大切です。
次にチョコレートの香りを生じさせるため、焙炒を行います。ここでは均一な焙炒がポイントとなります。
その後、カカオニブを取り出し、細かくすり潰しカカオマスを作ります。
カカオマスやカカオバター、砂糖、ミルクパウダーなどを混合し、微粒子化(15ミクロン程度)します。その後コンチングと呼ばれる精錬工程、鋼鉄製のローラーに長時間かけます。
最後にチョコレートに含まれるカカオバターの結晶の調整作業・テンパリングを行い、口どけの良いなめらかな光沢のある状態に仕上げます。
保存は18~19℃にて、乾燥した環境が最適です。
~マリアージュについて~
今回はチョコレート10種類と蒸溜酒5種類を用意いたしました。
チョコレートは以下のとおり。
・ヴァローナ社 マンジャリ(ダーク64%)
カライブ(ダーク66%)
グアナラ(ダーク70%)
タナリヴェ・ラクテ(ミルク33%)
イボワール(ホワイト35%)
・ドモーリ社 カシャーシャ(ローステッド・カカオ100%)
プエルトフィーノ(ダーク70%)
・フランソワ・プラリュ社 フォルティシマ(ダーク80%)
・ショコラティエ・ミキ マンデリンショコラ(ミルク&コーヒービーンズ)
オランジュ(ダーク76%&オレンジのコンポート)
お酒は以下のとおり。
・コニャック ラニョー・サボランNo.10
・グラッパ ポーリ クレオパトラ・モスカートオーロ
・ラム パイレートXO
・カルバドス シャトー・ド・ブルイユ15年
・スコッチ ラフロイグ10年
今回のマリアージュは、以下の組み合わせをお勧めいたします。
1、コニャック ラニョー・サボラン × フランソワ・プラリュ フォルティシマ
2、グラッパ ポーリ × ショコラティエ・ミキ マンデリンショコラ
3、ラム パイレート × ショコラティエ・ミキ オランジュ
4、カルバドス シャトー・ド・ブルイユ × ヴァローナ タナリヴェ・ラクテ
5、スコッチ ラフロイグ × ヴァローナ イボワール
ファインチョコレートを中心とした、蒸留酒とチョコレートのマリアージュのポイントについてまとめます。
ファインチョコレートには、それぞれ固有の味の型「味のプロファイル」があり、代表的なものとして「ビター型」や「バランス型」「ベリー型」などに分けられます。これらのプロファイルと蒸留酒の特徴を踏まえて、チョコレートと蒸留酒を合わせるタイミングを計ることになります。これが講師の提案するマリアージュのメソッドです。
①「ビター型チョコレート」には味わいの相対的効果を
比較的ビターな余韻を持つ「ビター型」には、チョコレートの食後のビターな余韻にお酒をつなげてゆくマリアージュが合います。ビターな余韻により、お酒の甘い風味をより豊かに感じます。ウイスキーやコニャックなどのお酒にぴったり合います。
②「バランス型チョコレート」には味わいの相乗効果を
苦みが少なくやさしい味わいの「バランス型」には、チョコレートとお酒を同じタイミングで味わうマリアージュが合います。同時に味わうことでチョコレートの風味がお酒の風味と溶け合います。ラムやグラッパ、カルバドス、テキーラなどのお酒に合います。
マリアージュの注意点として温度があります。ファインチョコレートの場合、温度が低いと風味が損なわれます。通常18~19℃で保存し、そのまま食すのがよいと思います。お酒の温度についても、常温であればマリアージュに最適です。ロックやハイボールの場合、チョコレートは口中で冷えてしまいますので、マリアージュには向かないと言えます。