ヴァイキングの言葉で「鹿の島」を意味するスコットランド・ジュラ島には、野生の鹿が4~5千頭も棲息している。人口は200人ほどだから、鹿に出会う確率のほうが高い。島民は鹿から農地や植林を守るため、設置されたフェンスの内側で生活しているくらいだ。2002年、渡邊篤史さんはアイラ島のポートアスケイグ港から小さなフェリーに乗り、クレイグハウス村にあるジュラ蒸留所を目指した。
「蒸留所の近くにある『ジュラホテル』に宿泊しましたが、テレビはつかないし、シャワーも出なくて最初は戸惑いました。でも、地元の人が集まるパブで飲んだり、名物の鹿肉ハンバーガーを食べたりして楽しかったですね」
蒸留所へ行くと、自分で樽を選びボトリングすることになった。ラベルの左上に大きく描かれた鹿が、ジュラ島を思わせる。ウイスキー業界の重鎮マシュー・D・フォレスト氏に勧められ、その右側に前年オープンした店のロゴを加えて2周年記念ボトルにした。店名の”Quercus(クエルクス)”は、樽の材料になる主な木材Oak(オーク)の学名。樽が店頭で迎え、自家製スコッチハギスなどのスコットランド料理が人気だ。
「58.8%のカスクストレングスなのでパンチが強く、若さを感じるウイスキーですね。ストレートがお勧めですが、加水するとより甘さが広がります。実は、1周年の時もジュラが記念ボトルでした」
毎年10月に向けて周年記念ボトルを詰め、既に14本のオリジナルがあるが、最初の2年を連続で務めたジュラとフォレスト氏との思い出は深い。また今年も新たな1本が、カウンター左右を埋めるキープボトル棚に現れる。
Quercus Bar 渡邊篤史氏
東京都豊島区東池袋1-32-5 大熊ビルB1F
03-3986-8025
18:00~02:00(金・土~04:00)
無休
※店舗情報は取材時のものです。営業時間帯等、変更されている可能性がありますのでご了承ください。
絵:佐藤英行
文と写真:いしかわあさこ