目玉の付いたドアに近付き、その先を覗くと店内が奇妙に歪んで見える。スクリーンに流れるサイレント・コメディ、実際に映画で使われたセット、樽の上に腰かけた宍戸錠のフィギュア……。日本の美術・映画監督の巨匠である木村威夫氏がデザインした空間は、昭和時代に在った場末の酒場を思わせる。
「1990年代に『駒ヶ岳』を飲むまで、本坊酒造がウイスキーを造っているとは知りませんでした。柔らかい口当たりに衝撃を受けて、一気に日本の地ウイスキーに興味が沸いたんです」
白い陶器瓶を店主の堀上敦さんがカウンターに置いた。長野県駒ヶ岳に在る信州マルス蒸留所は、1985年に竣工。岩井喜一郎氏の指導により、ポットスチルが設計された。日本のウイスキーの父といわれる竹鶴政孝氏をスコットランドへ送り出し、蒸留所での研修をまとめた通称『竹鶴ノート』を受け取った人物だ。ところがウイスキーの需要低迷に伴い、1992年に蒸留を休止。堀上さんが蒸留所へ見学に訪れた際には、何も稼働していない状態だった。
それでもマルスウイスキーなど国産のものを買い集め、長年携わった映像関係の仕事を辞めて2006年に開店。マルスと動き始めたばかりだったベンチャーウイスキー社のイチローズモルトを軸に、ジャパニーズウイスキーを並べた。ゾートロープ(回転のぞき絵)のような驚きと楽しさがある店でありたい、という思いは国内だけでなく海外からの客も呼んだ。
その後、マルス蒸留所は2011年に蒸留を再開。現在、世界的にジャパニーズウイスキーの需要が高まっているのは周知のとおりである。
shot bar ゾートロープ 堀上 敦氏
東京都新宿区西新宿7-10-14 ガイアビル3F
03-3363-0162
19:00~04:00
日・祝休み(休前日は営業)
※店舗情報は取材時のものです。営業時間帯等、変更されている可能性がありますのでご了承ください。
絵:佐藤英行
文と写真:いしかわあさこ