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第3回味覚セミナー「においの数だけレベルアップ講座」レポート

2018年6月23日に開催された株式会社 味香り戦略研究所 主席研究員の高橋貴洋氏による『味覚セミナー』の第3弾です。一回目は味覚に関する基本的なお話、二回目は味覚や感覚との相互作用についてでしたが、今回はにおい・嗅覚について、様々な官能体験を通じて理解を深める講座でした。

「おいしさ」の構成要素の中で、ベースとなる味覚は、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の5つの基本味に渋味・辛味を加えたものとされています。これに「におい」が加わり、味覚+嗅覚で風味となるといわれています。「におい」も「おいしさ」にとっては大変重要な構成要素といえます。

1、においの定義・おいしさの構成要素

地球にはおよそ200万種類の化合物があると考えられており、その中の約40万種類がにおいを有すると推定されています。しかし、化合物自体がにおいを有しているわけではなく、鼻腔奥にある嗅上皮の嗅覚受容体が特定の物質と結合し、生じた電気刺激を脳が「におい」としてとらえています。

つまり、においを感じるとは、空間に舞い上がっている「におい物質」が呼吸とともに取り込まれ、嗅細胞を刺激し知覚する感覚のことを指します。

また、「におい物質」の構造により「においの質」「においの強さ」が異なります。そして「濃度(強さ)」によってもにおいの質は変わります。

(1)においを感じるための条件

その物質のにおいを感じることができる条件とは、

①揮発性であること(分子量が300くらいまで)
②嗅粘膜に溶けること(脂溶性であっても、わずかに水にとける親水性の側面が必要である)
③嗅覚受容体に結合すること

と言われています。そのため、すべての揮発性化合物がにおうわけではないといえます。

(2)においのタイプ

においには2タイプがあり、鼻先から感じるものと、口中から感じるものとがあります。それらは同じものでも感じ方が異なります。

①たち香(オルソネイザルアロマ)

  • 鼻先から感じるにおい

②あと香(レトロネイザルアロマ)=もどり香

  • 唾液と混ざることで酸性から中性になり発生するにおい
  • 唾液の酵素などによって、口中で生じる反応によって発生するにおい
  • 体温や咀嚼強度によって生じるにおい

 

<体験>クエン酸を舐めてみる

唾液とまじり中性となることで、アセチルテトラヒドロピリジンが発臭する

(3)においを感じるメカニズム

嗅覚は視床を通らず直接的に視床下部に伝達し、情動や感情・記憶などを司る扁桃体・海馬に直接的に働きかけます。においを感じると、様々な情景や記憶を想起するのはそのためです。これは危険を察知しやすいようにではないかと考えられます。

味覚には5基本味があり、5タイプの味覚受容体に呈味物質が適合した時にその味が感じられます。一方、嗅覚には400種類の嗅覚受容体があり、1つのにおい物質が複数の嗅覚受容体を刺激してそのにおいを感じるため、基準臭はありません。複雑なパターンでのにおい認識が行われているため、大きく個人差が現れます。

 

2、実際ににおいを嗅いでみよう

(1)基本的なにおいの嗅ぎ方

  • まず、左右どちらの鼻の穴が通りがよいかをチェックする
    →一般的に2時間半ごとにスイッチングしている(交代制鼻閉)
    疲れないようにするためか?
  • 嗅覚は順応(脱感作)するので、自分のにおいを嗅ぐもしくは深く鼻から深呼吸をするなど対策をとる。
  • 空腹時はにおいに敏感
  • 午前中のほうが感度がよいことが多い
  • 部屋やサンプルの温度でにおい物質の揮発性が変わる
  • 換気に気を付ける

<体験>5つのにおいを嗅いでみる

ここでは、臭気判定士選定などに用いられる、第一薬品産業(株)のパネル選定用基準臭を用いました。花・カラメル・不潔臭・熟した果実・糞便かび臭(それぞれβ‐フェニルエチルアルコール・メチルシクロペンテノロン・イソ吉草酸・γ‐ウンデカラクトン・スカトール)のにおいを、それぞれ10~100ppmに希釈して におい紙に取り、においを取れるか、またどのようなにおいがするかを体験しました。

 

<体験>におい物質の構造とにおいの関係

①分子量、組成式が同じ3つの物質はどのようなにおいがする?

ここでは、組成式C1018Oであるゲラニオール・リナロール・ネロールを用意し、それぞれどのようなにおいかを体験しました。それぞれ、バラ・白い花・磯のりのにおいで、構造によってにおいが異なることが体感できました。

②分子構造が似ている物質のにおいは?

ここでは、環状飽和炭化水素を有するカンファーとシクロオクタンのにおいを比較しました。前者は虫刺されの薬「キンカン」のような、後者はナフタレンのようなにおいで、どちらも人工的な刺激臭がありました。

 

<体験>濃度が異なるとにおいの「質」が異なる

イソアミルアルコールは、程よい濃度だと虫は誘引行動を起こしますが、濃いと禁忌行動をとることになります。

(2)嗅覚を改善する方法

ここでは以下の3つの方法について提案がありましたが、一番のポイントは「常ににおいを感じること」でした。

①意識の改善
常ににおいを意識し、感じ・覚え、未知のものを体験してみる

②生活習慣の改善
いつの間にか「順応」しているので、これに対応する

③食生活の改善
嗅細胞は30~40日で入れ替わる。新生細胞7~14日間に刺激を与えると、より強く感じられる
味覚細胞同様、再生には亜鉛が必要なので、適度に摂取する

(3)におい識別テストのポイントと問題点

におい識別テストには、以下のようなポイントと問題点があります。

①薄いにおいが認識できるよりも、感じている「においの名前」を表現できるか、他人と表現が似ているかが一番のポイント

②順応への対応

③訓練を重ねることである程度上達する
特に短くこまめに訓練すると嗅細胞は鍛えられる

④個人差が大きいが、これには遺伝的要素もかなり関係している

*遺伝的要素=特異的無嗅覚症(部分的嗅覚脱失、嗅盲)
健常者でも特定物質のみ感じない、または高濃度でないと感じない場合がある

 

<体験>嗅盲物質を嗅いでみよう

①β‐イオノン
日本人の6割が感じにくい物質 = β‐イオノン感受性の低い遺伝子を有するスミレなどに含まれる香気成分

通常の閾値である10億分の1濃度、その100倍の濃度(100万分の1)、原液の3種類の濃度を嗅いで、自分の感度を体感しました。

②イソブチルアルデヒド
日本人の36%が感じにくい物質
ナッツやコゲ、カラメル様の甘い香り

③イソ吉草酸
日本人の約6%が感じにくい物質
チーズや不潔臭

※においの快・不快は遺伝するのか?
①においの恐怖の記憶は、マウスレベルで確認されています
マウスに特定の香りを嗅がせその際に電気刺激を与える、これを繰り返すと、子や孫の代でもにおいを嗅いだだけで、不快な反応を示します。

②パクチー(コリアンダー)のにおいの快・不快は遺伝
人間が持つ嗅覚受容体遺伝子のひとつが変異していると、アルデヒド感受性が高く嫌悪感を抱くことが解明されました。パクチーの嫌いな人の割合は、東アジアで21%、白人17%、アフリカ系14%、南アジア7%、ヒスパニック系3%。

(4)嗅覚感度を左右する様々な要因

①体調 がん患者はにおいに敏感になる
脳の疾患はにおい感度の低下を招く

②環境 湿度、温度、環境空気

③性差 嗅上皮の面積の大きい女性の方が敏感な可能性がある

④年齢 訓練により生涯にわたり嗅細胞は新生するため、加齢では衰えない
経験の多い分優位
におい感度が落ちると寿命が近い可能性

(5)においは組み合わせ

においは、さまざまな揮発性香気成分の集まりといえます

 

<体験>におい物質の組み合わせ

チーズや不潔臭を感じるイソ吉草酸とバニラの香りを呈するバニリンをそれぞれ嗅いだのち、これらを混合したものを嗅いでみると、チョコレートのようなにおいが感じられます。割合はバニリン主体で、少量のイソ吉草酸を添加。

この現象を利用したのが香水で、少量のヒトの体臭物質を添加すると心地よい香りになります。

(6)オフフレーバーを知る

オフフレーバーとは、食品に含まれる好ましくないにおいのことです。その食品カテゴリによりオフフレーバーは異なり、別の食品では好ましいにおいになることもあります。

①魚介類と赤ワインが合わせにくい
→赤ワインに含まれる鉄イオンが原因

②魚臭(トリメチルアミンなど)
→日本酒のアミン酸やゼラニオールによるマスキング効果

③脂質やタンパク質の酸化
→アルデヒド類の生成

④メイラード反応
→アミノ酸と還元糖の褐変化

⑤エステルの加水分解
→酸臭の生成

⑥トリクロロアニソール
→防カビ剤などが分解し生成

 

<体験>オフフレーバーを嗅ぐ

①pHを変化させることによるにおいの変化

牛乳とかつおだしに酸性物質やアルカリ性物質を加えてpHを変化させ、その際のにおいをチェックします。牛乳は、酸性ではミルク香が強くなり、アルカリ性ではカニのような腐敗臭が感じられます。かつおだしは、アルカリ性でより磯臭くなりました。pHを戻すと、においは元に戻ります。

②酸化させるとにおいはどうなるか

酸化させるために、ここでは第二鉄イオンを加えます。牛乳はタンパク質が分解し、チーズや生臭いにおいがします。かつおだしも大変生臭くなります。

3、においのさまざまな相互作用

(1)色とにおい

人間は視覚から得る情報が8割以上ともいわれ、さらにその8割が色による情報であるともいわれています。そのため色彩による心理的効果が生じ、官能を狂わすことがあります。したがって、色によるミスリードをなくすため、官能評価によっては色つきのグラスで行うこともあります。

 

<体験>無色のグラスと色つきのグラスではどちらの方がにおいは強いか

鼻先香(オルソネイザルアロマ)では、色つきの方がにおいを強く感じやすく、口中香(レトロネイザールアロマ)では色の割ににおいが感じられないため、色が濃い方が弱く感じる場合があることが体感できました。先入観には注意が必要です。

(2)グラスとにおい

①ロックグラス

  • 口が広いため、においがたまらない
  • 鼻がグラスの中に入るため、においを取りやすい
  • 飲む際、顎をあまり上げない

②タンブラー

  • 口が狭い
  • 感じるにおいは弱めになる
  • 傾けると鼻が当たるため、顎をあげ、のけぞる必要がある

③ワイングラス

  • 口が広く、においがたまる
  • 丸みのため、予想以上に傾ける必要がある
  • のけぞった飲み方で、鼻がグラス内に入ることになり、香味を一緒に体感できる
  • グラス内でのアルコールの広がりは、低温(13℃)の際はグラスの淵にそってあがるため、グラスの真ん中を嗅ぐとアルコールの影響は少なくて済む。高温(22℃)では一気に広がるため、香りは取りにくくなる。

 

 

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