酒育の会 第10回定期セミナー 2018年2月24日開催
「味覚の基礎と新しい味覚の発見」レポート

※この記事は有料会員限定レポートです。
2018年2月24日に開催された定期セミナーは、株式会社味香り戦略研究所主席研究員の高橋貴洋氏による「味覚の基礎と新しい味覚の発見」でした。お酒そのものに関する講座ではなく、テイスティングなどの官能に関わる基本的なセミナーで、官能試験についても体験いたしました。
1. 味覚の定義・おいしさの構成要素
まず基本的な味覚・おいしさについて。
味覚は五感のひとつで、口にするモノの化学的特性に応じて認識される感覚です。甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の5つの「基本味」に分類できます。渋味や辛味は、味覚ではなくそれぞれ触覚、痛覚という刺激であるといえ、これらは「広義的な味わい」とされています。
上記の味わいに、においを加えたものが「風味」、さらにテクスチャーや温度など五感覚(味覚・嗅覚・視覚・触覚・聴覚)で感じることを加えたものが「食味」となり、味わいの上位概念になります。さらに心身の状態や環境、地域差などの様々な要因を加味して「おいしさ」は構成されています。つまり「おいしさ」とは、味を基本として様々な要因で成り立っているのです。
味の感じ方については個人差がありますが、これは経験や遺伝によるもので、異なる尺度で味を語ることになります。テイスティングでは、客観的な数値に対する自分の味覚の離れ度合いを自覚することが、他者と味を比較するうえでは最も大切といえます。
また、味の時間軸を意識し、すっきりと消える味、舌に残る味を意識することも重要です。前者は甘味・酸味・塩味が、後者はうま味・苦味・渋味・辛味が挙げられます。
ここで、味覚の感度を評価するテストを2つ体験してみましょう。
1つ目のテストは「五味識別テスト」です。実際にサンプルの五味を探し出して、自分のレベル・苦手な味をチェックします。それぞれ味覚・五味の刺激反応の出現率が50%、境界線といえる閾値より少し薄い濃度で溶液を用意します。ここで、一番のポイントは薄い味が認識できることよりも、まず自分の感じている呈味の「味の名前」を認識できているか、感覚を表現できているかです。これは訓練によってある程度上達します。
また、味覚を改善する方法もあります。1つ目は意識の改善です。味やにおいを感じ、覚え、想像したりなど、今何を感じているかを意識することです。2つ目は生活習慣の改善として、薄味を心がけること、舌ブラシなどで口腔環境を改善することです。3つ目は食生活の改善で、特に亜鉛の摂取が重要です。亜鉛は、タンパク質を再生する酵素を生成させるのに必要で、これが足りないと味細胞が再生されにくくなるからです。
2つ目のテストは「スーパーテイスター試験」です。自分が味覚の鋭い人・スーパーテイスターなのかを診断してみましょう。はじめに、色素を含ませた麺棒で舌前方を染色します。「染色されていない細胞」が一番密集しているところを7㎜パンチ穴で探して、写真を撮り細胞をカウントします。その数によってスーパーテイスターかノーマル、ノン・テイスターかを判断します。36個以上だとスーパーテイスター、14個以下がノン・テイスターです。この数の多少は遺伝的な要素により決まっています。スーパーテイスターは苦味や辛味を強く感じ、コーヒーや茶、苦味の強い野菜、油を嫌う傾向にあり、割合としては25%、アジアやアフリカ、女性に多いと言われています。ノーマルテイスターは一般的な感じ方で、50%の割合です。ノン・テイスターは味をあまり強く感じず、好き嫌いが少ない傾向にあります。割合は25%で、アメリカ人やイギリス人に多いようです。
2. 味を感じるメカニズム
人はどのように味を感じるのでしょうか? 味の感じ方を知ることで、効率的に味が感じられるようになります。
舌の上には味を感じる味蕾があり、ここには実際に五味それぞれを感じる味細胞が存在しています。この味蕾の多くは舌乳頭に分布しています。舌の先端には茸状乳頭が、両脇には葉状乳頭が、舌奥には有郭乳頭があります。舌の中央には糸状乳頭がありますが、ここには味蕾はありませんし、さらに痛覚の神経もないため熱いものなどや辛いものへの刺激に対してもあまり反応しません。
従来、舌先で甘味/舌先両脇で塩味/舌やや奥両脇で酸味/舌奥で苦味という味覚地図、つまりそれぞれの味を識別する場所があると考えられていましたが、現在では否定されています。実際は1つの味蕾で5つの「基本味」に応答でき、舌全体で五味を感じていると考えられています。特に舌奥で最も敏感に感じ、舌先や舌横でも感じられ、舌中央はあまり感じないと考えられています。
また、舌以外にも味を感じる部位があります。味蕾の85%は舌に存在していますが、残り15%は舌の奥やのどに存在しています。具体的には軟口蓋・咽頭・咽頭蓋・咽頭喉頭部などです。飲み物などを飲み込んだ際、舌だけではなく喉の奥でも感じることからも理解できると思います。
3. 味覚修飾物質 ~味の感じ方を変える物質~
味の感じ方を変えてしまう物質があります。これを体験すると、今まで甘味に隠されていた味などを感じることができます。
甘味を消すものとして、ギムネマ・シルベスタ茶があります。ギムネマ酸が甘味のレセプターをふさぎ、甘味を感じなくさせます。これは人工甘味料にも効果があります。実際に試してみると、砂糖は砂のように、チョコレートは塩味を、ガムシロップも塩っぽく喉の奥で甘く感じます。白ワインは酸が強く、コーヒーリキュールは苦味を強く感じます。ハチミツはグルコン酸の酸味をメインに感じますが、高級なものは苦味や渋味も感じられます。
このほかにも、ミラクルフルーツがあります。これはミラクリンというタンパク質が舌の味蕾に結合した後、酸味のある食品を食べると甘味受容体を刺激するため、甘味を感じるというものです。
歯磨き粉やリステリンなどに含まれる界面活性剤、硫酸ラウリルナトリウムも甘味を減らす効果があります。歯磨き後、甘味を感じにくくなるのはこのためです。
このように、メインの味わいに隠された味わいを確認することで、その食品の味わいをより理解することができます。

セミナーを受講して
今回は味覚の基本的なお話でしたが、改めて確認させられることの多いセミナーでした。実技・テストなど体験しながらでしたので、より理解が深まりました。
舌での味の感じ方については、実際のテイスティングに役立つポイントがありました。ウイスキーなどの蒸留酒はアルコールの刺激が強いので、舌全体で味わうには疲れやすいといえます。味を一番感じられるのが舌奥であり、舌の真ん中は刺激に強いということでした。したがって、テイスティングの際はまず舌の真ん中でウイスキーを受けて、そのまま舌奥に向けて飲み込むのが最も舌にストレスが少ない方法だと考えられます。あらためて私自身のやり方を思い出すと、実際そのとおりにしています。個人的には舌が疲れにくく、味もとれるのでよい方法だと思っています。
また、メインの奥にある味わいを感じる必要性も感じました。アロマの場合は、その香りをめいっぱい嗅ぐことでメインの香りに対して鼻をバカにして、その奥にあるサブの香りを感じることができますが、味覚の場合そうはいきません。結局察するしかないので、今回のようにその奥にある味わいを体験しておくのは貴重なことだと思いました。
このセミナーは全3回のうちの1回目です。次回以降も味覚の基本的なお話について、実験を交えて講義していただきます。なかなか聞くことのできない貴重なセミナーですので、奮ってご参加ください。

